悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

今も意識が戻らない依子。

だけど俺たちの前に、何度も姿を見せて紅葉と名乗り続ける少女。


あの依子は、非人間的な動きをして
あの依子の肉体は、今も眠り続けたまま。



いやっ、それは非現実すぎるだろ。




華月らの調査資料に疑心を抱きながら、
その日は俺もベッドに潜って就寝した。


翌朝、ホテルで朝食をとった後
神威を連れて、須王啓二が生活しているアパートへと向かった。


木造アパート近くの有料駐車場に車を停めて、
歩いて部屋を訪ねると、無精ひげを生やした男が中から姿を見せた。


男は酷くやつれて見える。




「ご連絡を頂きました徳力のものです」


神威が当主と名乗ろうとするのを遮って、
言葉を続ける。


「私は早城飛翔。

 当主、徳力神威の血縁のものです。
 当主後見になりかわり、お話を伺いに参りました」


そう言って敬意を払うように一礼する。

男の視線は後ろの神威にも向けられる。


「こちらは私の甥です」

「そうでしたか……もしや、徳力のご当主自ら来てくださったのかと思いましたが
 違いましたが……。

 噂には徳力財閥のご当主はまだ小学生のお子様と伝え聞いておりましたから」


そう言う須王は何処かギラつくような媚びるような目が気味悪い。


「こちらも時間がありません。
 早々にお話を伺っても宜しいですか?」


長居は無用と言わんばかりに、左記に話をすすめる。



アパートに立ち入った途端に広がる足の踏み場もないような床。
そして部屋中に立ち込めるアルコール臭。



これ以上は神威を長居させたくなくて、車へ戻らそうと後ろを向くものの
頑固はアイツは、真っ直ぐに部屋の中を見据えて奥へと入っていく。



ゴミ邸とかしたアパートの一室のベッドで、
眠るように横たわり続ける一人の少女。



「こちらは?」

「娘の依子です。
 事業の倒産直後から意識が戻りません」

「病院には?」

「一度だけ、倒れていた日は連れて行きましたが
 検査の結果は異状なし。

 病院代もかさむと高くなりますし、ニ・三日入院させた後
 連れ帰りました」


啓二はそう言うと、愛しそうに娘の髪を撫でた。



神威はその少女の近くに歩み寄ると、
ゆっくりと手を翳したまま目を閉じる。



「どうした?」

「黒いものが視える」




そう言った途端に、何度も俺たちの前に姿を見せたあの少女が突然現れる。





「アナタ、邪魔なの。消えて」





そう言った依子の姿をした少女は、
真っ白い両手を伸ばして神威の首を絞めていく。



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