悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



飛翔の愛車である車の前まで来ると、
ポケットの中から、預かっていた鍵を勇の前へとちらつかせる。



「僕が運転?」

「お願いします」



基本、自分の車しか運転しないスタイルの私は
勇の掌へと鍵を置いた。

素早くロック解除をして、車内に体を滑り込ませると
ミラーや座席を自分の運転しやすいように、勇は調整してエンジンをスタートさせた。


心地よい振動を体に感じながら、
私はこれから帰る道程をナビに打ち込んでいく。


最短ルートと高速代に少し驚きながら、
財布からETCカードを機械へとセットした。
 
 


「多分、後でガソリン入れる予定だったんよね」



ガソリンの給油を告げる飛翔の愛車を見ながら、
勇が「ガソリンスタンド」探さなきゃっと小さく呟いた。


ナビを打ち込んで、
最寄りのガソリンスタンドを探そうにも情報が出てこない。



充電切れを起こしてしまった携帯を見つめながら、
飛翔に聞くことが出来ればと溜息をついた。



程なくして、先ほどセンターの前にいたマイクロバスが
私たちの隣で停車して、男性が一人降りてきた。



「ご当主後見役の補佐をさせて頂いています。
 万葉【かずは】と申します。

 どうかなさいましたが?」


車の窓ガラスを軽くノックして、
勇がガラスを下ろすと、柔らかい声が聞こえる。



「飛翔の車、ガソリンが足りなくて」


ガソリンメーターを指さしながら告げる勇に、
万葉さんは「そのようですね」っと少し笑いながら言葉を返した。



「途中のスタンドまで、マイクロバスで先導します」



そう言うと万葉さんは再び、マイクロバスに乗り込んで
マイクロバスは一度、ハザードを出して合図をした後、ゆっくりと動き始めた。



その車の後をついて到着した場所は、ガソリンスタンドではなくて
バス会社。



そこの一角に設置されたスタンドの間うにバスが止まると、
再び、万葉さんが姿を見せた。




「こちらのスタンドをご利用ください。
 村に今はスタンドは存在しません。

 こちらは徳力が預かるバス会社の専用のものですが、
 村唯一のガソリンスタンドが消えた今は、この場所を提供しています」



案内されるままに、給油口をあけてセルフでガソリンを給油すると、
私たちは自分たちが住んでいた場所へと一気に車を走らせた。
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