悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


鷹宮に再びリムジンが滑り込むと、
俺は迎えに出てくれた、雄矢院長と水谷さんにお辞儀をして
アイツを乗せた車椅子を、用意して貰った特別室へと移動させた。



神威をベッドに移動させると、
アイツは無言でいつものように全身で俺を拒絶するように
布団を頭まで被って、窓側を向く。





「飛翔、後は私がしておきますわ。
 ご当主、お疲れになったでしょう。

 少しお休みしましょうね」



そうやって華月が会話を始めたのをきかっけに、
俺は「また来る」とだけ告げて、
鷹宮の特別室を後にした。




特別室を出た途端、神威の転院が終わったことを誰かに聞いたのか
勇と由貴が姿を見せる。




「二人とも……」



何やってんだよ……。





心の中で言葉を続けながらも、
そんな二人の存在が、今は有り難い。





「時間が出来たら夜にでも話しましょうって、
 先ほど伝えましたよ」


由貴がサラリと告げる。



「まだ夜じゃねぇだろ」

「えぇ、そうですね。
 でも夜の方が飛翔はまた忙しくなるかも知れないでしょう。

 忙しい相手は待ち伏せして、捕獲するのが一番なんですよ。
 ねぇ、勇」



捕獲って……由貴、お前は他に言い方はねぇのかよ。



「そうだね。

 今、雰囲気的にも一段落したみたいだし、
 少しお茶しない?」


そう続けた勇の言葉に、逆らう理由もなくて了承する。



喫茶店か、裏の家にでも行くのかと思っていたら
勇が『お茶』と称して入室していく部屋は、総師長と綴られた部屋。



おいおいっ……勇。




「こんにちは、水谷さん。

 今日は友達連れてお茶に来ちゃいました。
 いいかな?」


身内の病院だけあって、昔から知り合いらしい水谷さんと呼ばれるその人と
会話を弾ませて、俺たちを招き入れる。

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