悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



「あらっ、そうそう。
 勇ちゃん、千尋坊ちゃんも受験合格したのね。

 雄矢先生に伺って本当に私も嬉しいわ。

 そちらは、いつも倍音の日に教会に顔を出してくださる氷室君だったわね。
 貴方は?」

「有難うございます。
 
 私も春からこちらで研修が決まりました」

「まぁまぁ、それは喜ばしいことね。
 明日もボランティアには来てくださるのかしら?

 ボランティアじゃなくて、もう研修を初めても大丈夫よね。
 お昼は、赤飯を作ってお祝いするわね。

 それで勇ちゃん、後ろの方は早城飛翔君だったわね」

「えぇ、そうですよ。
 飛翔は……多分、今日が合格発表だって覚えてないんだと思います。

 僕も忘れてて、起きてすぐに千尋にきいて思い出したくらいで」



勇と水谷さんの会話を聞いて、
俺もようやく今日が、合格発表の日だったことを思いしる。



「まぁ、それは大変ね。
 早城君は、ずっと忙しかったんだものね。

 どうぞ」



そう言って水谷さんは新聞を俺の前に差し出してくれる。


手渡された新聞を受け取って、
開くと早々に、俺自身の受験番号を確認する。



受験番号を見つけて、無言でガッツポーズをした俺を見ていた
二人は、嬉しそうに顔を見合わせる。




「あらあらっ、三人とも合格なんて素敵ね。
 私も忙しくなりそうだわ」



そう言いながら、水谷さんと勇が呼んでいたその人は
俺たちの前に、コーヒーカップを置いた。



一緒に添えられているのは手作りのお菓子。





差し出されたケーキにフォークをいれて
口元に運ぶ。



甘いのが苦手な俺でも食べやすい甘さ。




「水谷さん、もしかしてこれって知成?」

「知成って、若杉さんですか?」

「あらっ、若杉君のことも知ってたのね。
 勇ちゃん、そうよ。

 お友達だったらいいかしら?

 若杉知成君、後お友達の蓮井史也君も合格。
 研修が決まったわよ」



大学で何度か会話をしたことがある二人を思い浮かべながら、
春から始まる、俺の新しい時間に想いを巡らせる。






あの出来事から、
俺自身もかなりいっぱいいっぱいだったのだと
気付かされる。




そんな時、傍でストッパーの役割を果たしてくれる親友の存在。




< 39 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop