悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



「飛翔、貴方の方が大変でしょ。
 お父さんに聞いたわ、ご当主が行方不明だって。

 華月様も顔面蒼白でいらっしゃったもの」

「母さん、神威は神威でいんだよ。
 俺は父さんとも母さんとも、血は繋がってなくても大切な家族だと思ってる。

 なかなか素直になれないけどな。
 ここで過ごした時間は、俺にとって大切なんだ。

 アイツにも、この体験をさせてやりたい。
 
 だから……当主なんて呼んで、壁を作らないでやってくれよ。
 アイツを呼び捨て出来る人間なんて、徳力にはもう殆ど居ないんだ。

 神威は当主なんて名前じゃないだろ」


そう言いながら想いを吐き出すように伝える言葉。



母さんは、ハッとしたような表情を見せながら
時折、顔をしかめながら鳩尾の辺りを手で押さえた。


「母さん……鳩尾、痛いの?」

「大丈夫よ。
 すぐにおさまるわ。

 ここ数日、時折痛むのよ。

 ほら、このマンションに安倍村の山辺地区だったかしら、
 被災された方をお迎えしたでしょ。

 本来は飛翔がやるはずよねって思って、
 貴方の代わりに、一件一件、部屋を訪ねてご挨拶して
 お手伝い出来ることを聞いてまわったの。

 だから疲れたのかもしれないわね」



そう言いながら、母さんは何かを隠すように言葉を噤む。



もしかしたら……訪問した先々で、
何かを言われていたのかもしれない。





俺が徳力を捨てた人間のように、
安倍村では伝わっているから。



徳力において、分家の末端である早城姓を名乗る俺が
今や雷龍の札によって、当主と同等の権力を持つナンバー2と言う現実。



それらの事情を知る一部の者たちは、
面白いはずもないわけで。



もしかしたら、母さんはそう言った奴らのターゲットにされてしまっていたのではないかと
感じられた。




「あぁ、母さん遅くなったけど報告。
 俺、国家試験通ったから、明日から鷹宮で研修が始まる。

 だから一度、鷹宮に顔出せよ。
 疲労にしても、体調悪い時くらい、病院頼ってもいいだろう」


「まぁ、帰って来てそうそう、飛翔に怒られてしまったわね。
 でも大丈夫よ。

 さっ、晩御飯作らないと。
 飛翔こそ、疲れているでしょう。

 先にお風呂に入ってらっしゃい」



何時もと同じように俺を迎え入れて、
お風呂へと誘導する。




風呂からあがった時、母さんはキッチンで血を吐いて倒れてた。



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