悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

15.闇に潜む雨 -神威-



奥の間で過ごしていく生活の中で、
ボクはボクの心が少しずつ壊れていくのを強く感じていた。



「八重村、康清はどこだ?」



いつもの様に食事を運んできた八重村に声をかける。




「ご当主様、康清さまは本日も徳力の総本家にて
 儀式の打ち合わせに出向いておられます」




儀式……。


それは本来の儀式の日から、すでに遅れて二ヶ月が過ぎようとしている
海に還る、贄【にえ】としての儀式



本来の当主としての役割を果たせぬままに、
今も生き続けるボク。



ボクは、ボク自身の大罪を知っている。



当主とは、その為の存在……。


一族において、民を守るための生き神。
切り札なのだから。




「華月は万葉は?」

「当主後見役と、後見補佐のお二人は、
 早城飛翔を持ち上げようとする動きがあり、
 一族の総意で、ご当主に近づけないように監視しております」

淡々と状況を報告する八重村は、
静かに一礼をして、部屋を出ていこうとする。


「八重村、いつもの神水を頼む」

退室間際の八重村に、飲み物を頼むと
八重村は静かに頷いて、室内から姿を消した。

外からの鍵がいつもの様にかけられて、
綺麗に飾られた膳に箸を少しつけると、
すぐに蓋をして、テーブルから離れる。




この部屋に来て、何日が過ぎたのかすでにわからない。



ただ毎日毎日、この部屋で食事だけが与えられて
来客する存在と言えば、八重村か日暮のみ。


お腹が減っているのかいないのかすら、
今のボクはわからなくなっていた。



前回、運ばれてきた瓶を手に取って
グラスに神水を注ぐと、
そのままコップに一杯の水を飲み干して
窓から外を眺める。





眠るたびに見る夢は、両親と共に過ごす甘美な時間。





起きている時間の方が、苦痛に思えるような
時間の中で、布団の中、横になっている時間の方が
自分でもわかるくらいに多くなっていた。




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