悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence





再び、外から鍵が開かれる音が聞こえて
布団の中で目を開ける。





「ご当主、お目覚めでしょうか?」

「あぁ、構わない。
 康清、総本家の会議に不在ですまない」

「ご当主は、儀式の前の大切な御身。
 万が一のことがあっては一大事。

 全ての御支度は、この康清めにお任せください」





そう言ってボクの前で膝を折る康清。




「康清、聞かせてくれないか?
 ボクの母と父は、儀式をどのようにのぞんだんだ?」




そう……。




ボクの記憶に強く残り続けるのは、
白装束を身にまとった、母さんがボクを強く抱きしめた夜。

何時もは強い、お父さんが
その日だけは肩を震わせて泣いていた。





父さんが旅立ったその日も、
外は嵐みたいに雨風が強くて、同じような白装束を来て
村人たちと一緒に家を出ていった。



その日から、父さんは帰ってこなかった。








ボクが知る儀式は……
大切な存在を奪う時間以外のなにものでもない。




失うものがなくなったボクには、
もうこの命すらも、どうでもいいとさえ思えてしまうのかもしれない。







「先代ご当主、信哉さまと、その夫人・深凪【みなぎ】さま。
 ご当主は、お二人の最期を知りたいとお望みなのですね」



ボクが頷くと、康清はゆっくりとその時の話を始めた。




「本来、信哉さまが儀式に望まれるはずだったのですが、
 ご当主がまだお小さかったのもあり、今後の行く末を案じて
 お母上、深凪さまが先に儀式に望まれたのがご当主が一歳の秋。

 勢力の強い台風の影響で、村が孤立。
 雨風を宥めるために、その身を還した深凪さま。

 輿に揺られて、海へとお運びし、
 そのまま先日の儀式のように、小舟に身を移して
 海へとお流ししました」




時折、目を伏せながら紡がれる母の最期。




その後、続けられるのはボクが三歳の時に旅立ってしまった
父の最期。




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