悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



「はい」


奥から聞こえる時雨の声は、
朝帰りだったのかまだ眠そうだった。



「朝から悪い。
 時雨、出掛ける前に邪魔した」

「あぁ、飛翔か。
 いいよ、もう僕も起きないといけない時間だから」


暫くして内側からロックが解除されて、
ドアが開くと、寝起き姿の時雨が現れる。



「時雨、悪いな。こんな時間に」

「別にいいよ。
 飛翔のお蔭で助かった。
 飛翔来なかったら、起きれなかったよ多分」

「まだ追ってんのか?」


そう問う俺に、時雨は黙って頷く。


「大分、近づけそうなんだけどね。 
 下手に動くと、全てが無駄になる。
 今はそんなところかな。

 んで飛翔は?由貴は鷹宮にいって居ないけど、
 上がってくんだろ」


中に誘導しようとする時雨の声を制するように首を横に振ると
時雨は、正面から向き合うように表情を変えた。


「飛翔、今から何かするつもりだね」

「神威を連れ戻しに総本家に向かう。
 ただ今の徳力はヤバい。

 俺の従姉妹も今は行方が知れない。
 俺の立場上、俺の存在を疎ましい奴も多すぎる。

 四日すぎても俺が戻らない時は悪いが迎えに来て貰えるか。

 由貴には危険なこと頼めないからな。
 ここに俺が知る徳力の所有地の情報が入ってる。

 この中の何処かに監禁されてるはずだ」


そう言ってmicroSDを時雨に握らせると、
同時に目の前でつける発信機をつけて、受信機を時雨へと預ける。



「飛翔、お前……どんだけヤバいんだよ。
 お前の生家」


そんな言葉をため息交じりに吐き出しながら、
受信器を受け取る。


「ついでにGPSも起動させておく。
 携帯が繋がってる限りは、辿れるだろう。

 厄介なこと頼むが、万が一の時は」

「わかった。
 僕も何があっても動けるように調整しておく」

「じゃ」


時雨の元を後にして、再び愛車に乗り込むと
総本家までの道程を一気に駆け抜ける。


自宅を出て二時間半ほど過ぎた時、
ここ暫く通い続けた見慣れた景色が視界に入って来る。




大雪のあの日、雪崩で道路が塞がれていた場所も
今は復旧してあの災害の爪痕は何処にも感じさせない。



総本家の駐車場へと車を停めて、
敷地の中に入ると、そこに華月も万葉の姿も存在しない。

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