捨て猫にパン
「あのさ、真琴」


「なぁに?」


「俺、いなくなると寂しい?」


「どうしてそんなこと言うの…?」


「あのさ、俺、10月に本店行くことになりそうなんだ」


「え…。異動…?」


「うん。何度もその話蹴ってきたけど、今回ばかりはもう無理でさ。その残務処理と本店準備で、これからも忙しいと思う」


「そっか…。でも、栄転だもん、ね…。おめでとう、陣」


「毎日、仕事で顔合わせらんねぇし」


「うん…」


「仕事、忙しくてまた真琴に寂しい思いさせちまうし」


「うん…」


「それでも俺の傍にいてくれるか?」


「あたしは…。あたしはいつだって陣の傍にいるよ?約束したでしょ?指きりげんまん」


「だよ、な。なんか俺、不安でさ。真琴がこうやって俺の中にいるのに、いつだって掴めない雲みたいな感覚でさ。バカだよな、俺」


そう言ってあたしを強く抱き締めてくれる陣に。


あたしは“好き”も“愛してる”もあげられない。


拭ってあげなきゃ、気のせいだよって笑ってあげなきゃならない不安なのに。


あたしの不安すら押しつけてしまう無責任な自分が情けない。
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