捨て猫にパン
「ねぇ、陣?」


「どうして鏡の中だったの?」


「何が?」


「どうしてあの時、あたしを突き放したの…?」


「なんかさ、見えちまって、さ」


「…?」


「鏡に写った自分を見た。焦ってどうしようもない自分がいた。鏡越しに真琴も見えた。不安でいっぱいの目をした真琴がいた。こんなかっこ悪い俺でこの先、不安の涙に暮れる真琴を守っていけんのかな、って、自問自答したらさ、結局は真琴の気持ちを一番に優先させなきゃ、どこにも幸せなんて見つけられっこねぇって、さ…。だから真琴に、鏡の中の真琴に俺は賭けたんだ。幻の愛じゃなく、真実の愛を俺に…って。

けど、答えなんて、最初から決まってたんだよな。それでもいいと思えた。真琴が笑うなら、どこかでその笑顔を咲かせることができるのなら、俺は遠くからでも見守っていればいい。真琴の正直な笑顔、それがある場所がやっぱ“愛”なんだよ。

そうだろ?」
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