捨て猫にパン
「休み、いつ?」


「き、金曜と土曜日…です…」


「じゃ、その日以外はオレと出勤でいい?」


「で、でも!ご迷惑ではっ!?」


「真琴ちゃんは迷惑?」


「い、いえっ、あたしは…」


「じゃ、決まり。帰りはどうする?会社まで迎えに行ってもいい?」


「いえっ、いえっ!か、帰りは電車もそれほど混でませんしっ!大丈夫ですっ」


「真琴ちゃんの大丈夫ってアテになんない感じするけど。ま、いいや。帰り、電車乗ってみて本当に大丈夫かどうか、電話くれる?」


「で、電話ッ!?」


「昨日の名刺、オレのケータイ、わかるよね?」


「ハ、ハイ…」


「待ってるから」


「ハイ…」


あたしはなぜか顔面真っ赤にして繋がれた手をチラチラ見ながら、倉持さんの話にすっとんきょうな相槌ばかりして。


ちぐはぐな会話に時々笑う倉持さんの明るい声を聞く度、思考を停止させた。


渋滞の街をくぐって会社前に車が停車した頃には、頭も足もフラフラで。


「じゃ、仕事頑張って。いってらっしゃい」


目の前から走り去る倉持さんのシルバーの車と、繋がれていた手から逃げていく体温。


寂しいような、満たされたような。


すぐに会社に入る気にはなれず、近くのコンビニでサンドイッチといつものコーヒーを買って、一呼吸。
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