捨て猫にパン
「あたしは…!」


「明日からは会社から少し離れた場所で降ろすよ。それでかまわないよね?」


「ハイ…」


「じゃ、食べようか」


運ばれてきた料理を見て倉持さんが笑うから。


あたしもフォークを持って、前菜のカルパッチョに手をつけた。


それきり倉持さんがあたしの手の痣や、車に乗れない理由を問いただすようなことはなくて。


「おいしいね」


って、パスタを食べたり。


「天気がいいね」


って、笑ったり。


他愛のない会話と料理を楽しんだ。


食後のエスプレッソがすごくおいしくて。


その苦味が気持ちの後味をきれいに拭ってくれた。
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