捨て猫にパン
帰りの車では、あたし達の企画した旅行の話ばかりだった。


「へぇ。台湾のお客さん?」


「ハイ。中国とか台湾とか。あちらのお客様には冬の北海道、すごく人気なんです」


「雪まつりかぁ。添乗員として同行したりするの?」


「多分、あたしじゃないです。北京語、話せないので。きっとメイ先輩と明石くんが添乗で、あたしはこっちでクレーム処理だと思います」


「そっか。いい旅を提供できるといいね」


「ハイッ」


しばらくドライブを楽しんで、アパートに送ってもらって。


「じゃ、明日の朝」


「ハイ。今日はすごく楽しかったです。朝顔、ありがとうございました」


シルバーの車を見送って部屋に入り、早速、買ってもらった朝顔の鉢に水をさした。


お腹も胸もいっぱいで食べられないりんごあめは、冷蔵庫の中へ。


いつか。


いつかこのりんごあめ、笑って倉持さんの前で食べられるといい、な…。
< 58 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop