隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー

この膝は神以上に屈せず








刑部(おさかべ)神社の夏祭り。


大学の食堂はその話題で持ちきりだった。

この町の中には、刑部神社と呼ばれる大きな神社がある。

7月の中旬の土曜に、毎年その刑部神社で夏祭りが催されるのだ。

地元ではないから詳しいことはわからないが、クラスの女の子たち曰く、大きなお祭りらしい。


「へえ、そんなに大々的にやんの?」


あたしは橙色の光と大勢の人を思い浮かべながら、丸テーブルの向かいに座る女学生の2人に問いかける。

右に座る三つ編みの女の子を優奈(ゆうな)。

左に座る明るい髪をしたギャルっぽい女の子を美亜(みあ)という。


「まあ、それなりにね。
けど、駅に乗って東の方に行けば、もっと大っきいお祭りあるし。
ウチはそっちに行くかなー。
彼氏と約束してるし」


螺旋階段のように巻かれた髪をいじりながら、美亜が色の豊かな唇をすぼめる。

そんな大迫力な容貌の美亜のそばで、優奈が縮こまりつつ口を切った。


「私はバイト入っちゃったし、遅くにしか行かないかもしんないかな」

「2人ともすでに先客あり、か」


あたしは頭を垂れる。

もともとあたしが所属してる文学科は、比較的女学生の人数が少ない傾向にある。

ゆえに、席の近い優奈と美亜とは、割とすぐに打ち解けた。


「ねえ、緋奈子はどうすんの?
誰かと行く予定は?」


美亜の問いに、あたしは考えるまでもなく、


「ぜろ」


と、答えた。

すると美亜が瞠目して、さも驚いたといった様子で「うっそ、まじでー?」と声高になった。

……うん、だいたい美亜が何て言いたいのかは想像できる。美亜と優奈以外に、あたしと一緒にいる人とか限定されてくるもんね……。


「御堂くんは一緒に行かないの?
登校の時なんてほとんど一緒にいるのに」


案の定、美亜はナポレオンこと御堂の名を出してきた。


「そうだよ、御堂くんなんて緋奈子にべったりだし、誘われたらくると思うよ」


美亜に続いて、優奈までそんなことを言いはじめる。

しかも2人とも、なんだか目が煌めいてる…。

いや、確かに、いつも一緒にいたことは否定できない。

でも2人が思ってるほど、男女男女してない。

だいたい、いつもの会話といえば…


『緋奈子よ!てんぷらが黒焦げになったんだが、これはどう食えば良いのだ!』

『安心せよ!緋奈子どののバストならサラシもいらぬだろう!』

『ブロッコリーってアフロに似ておらんか?』


って…こんな感じよ。




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