マーメイドの恋[完結]

ーまた女?ほんとに期待を裏切らない人ね。いろんな意味でー


夏子も素知らぬ顔で、伊原たちの横を通り抜けた。
その後振り向いて見たが、女性が何やら楽しげに伊原に話しかけているのを、普通にうなづきながら伊原は聞いていた。


夏子になど会っていないかのように、伊原の後ろ姿からは、何の後ろめたさも感じてるようには伝わってこなかった。


ーたいした男だわ。何にも動じてない。私じゃなかったら、あの場で修羅場になってるところなのにー


あっ!
と夏子は声に出しそうになった。
夏子が伊原に対して、問い詰めたりするような女ではないことを、伊原はわかっているのだ。


ー私はそこまでバカな女に見えるの?ー


今度こそ、もう駄目だと思った。
この先ずっと、浮気を目の当たりにしても、許してくれる女だと思われたくはないと思った。


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