マーメイドの恋[完結]
夏子はドアを開けずに、内側から返事をした。
「何か用事ですか?」
「夏子!今日のことで話があるんよ。電話もしたばってん、出らんけん家まで来たとよ。誰かおるんね?」
「友達が来てるのよ。それに話することなんか何もないわ。わかってるでしょ」
「だけん、それを説明したいとよ。ちょっと出てきてくれんね」
「今日は無理です。今度合鍵は返しに行きますので、その時にお願いします」
「わかった。待っとるけんね」
駐車場には倉沢の車が停まっている。
部屋に男がいるのはわかったのだろう。
しかし、それで良かったのだと夏子は思った。
あんな仕打ちをしておいて、何を説明することがあるというのか。
もう騙されることは絶対にないのに。