先生がくれた「明日」
家に帰ると、温かい電気が点いていた。

カチャ、と静かに玄関の扉を開けると、走るように先生が現れる。


あ、先生、エプロンしてる。

もしかして、歩にごはんを作ってくれたのかな。

ほんとに、優しいな、先生は。



「……どうした。」



先生は、低い声で言った。

私の様子に、ただならぬものを感じたみたいだ。



「何があったんだ。」


「ただいま、先生!傘忘れちゃって、こんなにびしょびしょになっちゃった!」



場違いな明るい声で言うと、先生は眉をひそめた。



「おい、今何時だと思ってる?さっき、やっと歩を寝かしつけたんだぞ。姉ちゃんが帰ってくるまで起きてるって、ずっと泣きわめいてたけど。」



さっと時計を見ると、夜の11時だった。

どうしてこんなに時間が経っているんだろう。

私は一体、あそこからどうやって帰ってきたんだろう。

分からないことだらけだ。



「先生、ごめんね、ありがと!もう帰っていいよ!私シャワー浴びるし。」


「……帰れるわけないだろ。」



先生が、真剣な顔で私を見つめていた。

やめて、そんな顔しないで。

きっと話したって、先生は、先生の顔で私を怒るんでしょう?

軽蔑するんでしょう?

『校則違反』で、私は退学になる?



「とりあえず、早くシャワー浴びろ。話はそれからだ。」



先生は、私の背中を押した。

ほんの少しなのに、触れられたらびくっと肩が震えてしまった。

先生は、驚いたように手を離す。


私は、俯きながら足早に部屋に入った。
< 21 / 104 >

この作品をシェア

pagetop