先生がくれた「明日」

約束

「行ってきまーす!!」


「行ってらっしゃい!!」



大きな荷物を抱えた歩を送り出す。

すると、同時に扉の向こうに跡部先生が現れた。



「歩、じゃあな!」


「うん!みっちゃんも、行ってきます!」


「気をつけろよ!」



目を細めて歩の後姿を見送っていた先生。

そのまなざしの切なさに、きゅう、と胸が痛くなる。



「じゃあ、俺たちも行こうか。」


「うん。」



もう準備は完璧だ。

私は玄関のドアに鍵をかける。



「どこいくの?」


「内緒。遠くに行きたいって言っただろ?」


「うん。全然知らないところがいい。」


「ああ。」



先生と一緒に、駐車場まで歩く。

なんだか心なしか思いつめたような先生の表情が、私は怖かった。



「お願いします。」


「どうぞ。」



助手席のドアを先生が開けてくれて。

私は、そこにするりと乗り込む。

ドアを閉めた後、先生も運転席に乗り込んだ。



「出発進行!」


「……くふっ。」



急にふざけた先生に、思わず吹き出してしまう。

すると先生は、安心したように微笑んだ。



「やっと笑ったな。」



その言葉にはっとする。



「なあ莉子。この旅行の間だけでいい。全部忘れてほしい。」


「え?」


「全部忘れて、俺には笑顔だけを見せてほしい。」



先生は、気付いてたんだね。

先生の言葉や仕草の中に、私が何かを感じ取っていたということを。

だけどお互いに、それは言葉にできなくて。

言葉にしたら、本当になってしまいそうだったから―――


だから、切実なその願いに、私は笑顔で答えた。



「うん!」


「その調子だ。」



先生は、滑らかに車を発進させる。

何かを失いそうな哀しい予感に、私は小さく肩を震わせた―――
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