先生がくれた「明日」
それが最後だった。

私はそれから、先生に会うことはなかった。


心のどこかで予想していたことだったけれど。

やはり、学校からもマンションからも、先生が消えてしまったことに気付いたときは、衝撃を受けた。


私はいつでも、窓から先生の部屋の窓を見てしまう。

もう、それが癖のようになってしまった。

あの日から、カーテンは開いているのに、人影の映らない窓。

もう、どんなに願っても、そこから手を振る先生には会えない。


それでも、季節は流れる。

みんな、先生がいないことに気付かないみたいに、日々を送っている。

私だけが、時間の中に置き去りにされたみたいだった。


それとなく、バイト先で先生のお姉さんに訊いてみたこともある。

でも、やっぱり教えてくれなかった。

先生は元々緻密な人だから。

こういうことに関しても、徹底してる。

どこかから情報が漏れるなんてことは、絶対にないらしい。


だからといって、先生を積極的に探そうとはしなかった。

そんなこと、私にはできなかった。


先生が、あんなに切ない顔をして私と離れたのに。

追いかけたら、あの時みたいに。

また先生を、泣かせてしまう―――



「悲しい時は、悲しみに殉ずるのです。」



住職さんの言葉が、今になってよく分かる。


先生に会えなくなってから、私は歩のいないところで泣いて泣いて泣きまくった。

歩も、気付いていたと思う。

だけど、勘のいい歩は何も言わなかった。

跡部先生のことを尋ねることすらしなかった。

あんなに懐いていたのだから、歩も同じように寂しいはずなのに。

本当に、小学生とは思えない。


だけど、毎日泣いていたら。

どこかでその限界点を迎えたんだ。


もう泣いていても仕方がないって。

そんなこと、先生も望まないって。


だから今は、静かに日々を生きている。

先生と行ったあのお寺の庭園で。

先生と二人、目を閉じたときみたいに。


透き通った心で、生きている―――
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