先生がくれた「明日」
トイレに行くと、ドアに紙が貼ってある。



『トイレットペーパーの中!

 隠しながら、俺、何やってるんだろうって思った(笑)』



先生―――

寂しそうに苦笑する先生の顔が、脳裏に浮かんだ。


トイレットペーパーの中?

それってどういうこと?


よく見ると、ひとつどう見ても、一度といて巻き直したようなロールがあった。

これだ!


ぐるぐるとトイレットペーパーをほどいていく。

ほんとだよ先生。

何やってるの。


しばらくして、はらりと紙が落ちる。



『なかなか面白かっただろ?次は寝室。』



寝室―――

あの日のことを思い出す。


歩を連れて行かれてしまって、空っぽになった私を。

空っぽの先生が、愛した。


あのベッド。

薄暗いあの部屋は、私の切ない記憶。



寝室にそっと足を踏み入れると、カーテンが開いているからか、あの日のような薄暗さは感じなかった。


先生のベッド。

何よりも先生を感じる。

ここで、毎日眠りについていた先生。


怖くて、眠れない日もあっただろう。

切なくて、たまらない日も―――


それでも先生は、私に会って幸せだったと、そう言ってくれたね。



『枕の下』



窓に貼ってあったその紙を取って、枕を持ち上げる。



『莉子へ

 楽しかったか?次で終わりだ。

 俺は、こう見えて欲張りで、さびしがり屋なんだ。

 すまないね。

 最後まで、こんな俺の戯れに付き合わせてしまって。

 ただ俺は、最後にもう一度だけ、俺に触れてほしかったんだ。

 俺が生きていた証に、触れてほしかった。

 もう一度、くっきりと思い出してほしかった。


 よし、じゃあ次で終わりだ。

 リビングにある、俺の鞄を開けて、ペンケースを開けてみろ。』



涙がこぼれて止まらない。

先生、そういう意味があったんだね。


確かにそうだ。

今までずっと、メモを探しながら。

先生の愛用していたものに触れた。

先生が、生きていた証に触れた。


そして、私は最後だという、鞄を探しに。

寝室を後にした―――
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