過ちの契る向こうに咲く花は
 そんな理由で、と思ってしまった。
 そしてすぐに、そう思うぐらいの家族関係ってなんだろう、と疑問がわく。
「巽はさ、永遠に二番手なの。どんなに努力しても、苦労しても。親から縛りつけられてもがけないだけでもつらいのに」
 私は一人っ子だったから、兄弟のいる感覚はわからない。だけどほんのすこし、共感してしまう。
 認められない、つらさ。

「っていうのは、俺の勝手な予想なんだけど」
 なのに鳴海さんは、あっけらかんとそんな風に言う。そのふざけた感じが、嘘なのか本当なのかを曖昧にさせている気がした。
「まあでも、巽が葵ちゃんを選んだのは、俺的にはちょっと嬉しかったりするんだなー」
 続いたことばの本意も。

「葵ちゃん、もっと自信持っていいと思うよ」
 これだけ喋り続けているのに、鳴海さんのお弁当は着実に減っていっていた。
「巽に、どうして私なんか、みたいなことを言ったらしいけど」
 昨夜の無口なままに片づけていく伊堂寺さんとは大違いだ。
「そんな葵ちゃんなんかを選んだ巽のことも考えてやってよ」
 饒舌なところ然り。

 鳴海さんはそれだけ言って、残りは他愛もない話を続けていた。とくに私からの意見を求めることもなく、それ以上伊堂寺さんの話題を出すこともなく。
 そしてそれは食べ切っても終わらなかった。
 私が食事を終えるまで相手をしてくれていたのだと気づいたときには、鼻の頭を雨粒が撫でていった。
 
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