過ちの契る向こうに咲く花は
「本当はこうじゃないはず、実際は違うはず。それは願望でも自覚でもない。自尊心を保つための結果だ」

 耳が痛い。
 そう思うということは、自分でもどこかで気づいていたということだ。でもきっとそれすらも否定し続けてきた。
 違います、そんなことはないです。そう言えない自分が恥ずかしい。涙なんてでてこないけれど、伊堂寺さんのことばに深く抉られるのは確かだ。

「野崎すみれにどこまで言われたかは知らんが」
 そんな状態の私にお構いなく、伊堂寺さんは続ける。
「安心しろ、俺は見た目でお前を選んだんだ」
 それもまた、淀みなくはっきり言われた。

「……扱いやすいって言ってましたよね」
 しばらくしてようやく私の声が出る。
「言っただろう。それも人となりだ」
「でもあきらかに野崎すみれさんのほうが、見た目もいいと思います」
 負け惜しみにならないように、なるべく声を張る。

「世間一般論と俺の意見は違ってもいいだろう」

 それって、ちっともフォローされている気がしない。
 まさかのはっきりした意見に、思わずため息混じりの笑い声がもれてしまった。

 このひとは、ほんとうに正直なのだろう。愛想がないというよりも、取り繕うことが下手なのだろうか。食事中は割と気遣いができるひとなんだと感じたのに、なんだかこういうところはずれている気がしてならない。

 ちっとも、気持ちが軽くなった気もしないし、愚痴をこぼせた気もしない。
 私の生き方を改めねばとか、いい加減過去を振りきろうとか、そんなことも考えられない。
 それでもちょっとだけ、このひとには通じないんだろうから気にするだけ馬鹿みたいかな、と思うことができた。

「人は見た目が九割なら、あとの一割はなんなんですか」
 笑った声をひっこめて、尋ねてみる。
「コミュニケーション能力、と言われるかもしれんが、それも見た目だと思っている。だから残り一割は見た目とのギャップだ」
 返ってきたことばに、もう一度笑った。
 全然、答えになっている気がしない。
 
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