過ちの契る向こうに咲く花は
 久しぶりに何もない土日を過ごした。
 出かけるといっても近所のスーパーのみ。
 家に帰って荷物をもうちょっとまとめたかったけれど、この間みたいに知らないひとがいたら嫌だったからそれも諦めた。

 結果、ずっと伊堂寺さんのマンションにいた。伊堂寺さんの持っていた本を読んだり映画を見たりして。
 対して伊堂寺さんは忙しいのかほとんど出ずっぱりだった。土曜の夜は帰ってくることもなかったから、実家に行っていたのかもしれない。何も聞いてないから想像だけど。

 だから結局、金曜の夜のことはあのまま。何もわからず、すっきりせず。
 でも考えてもしかたがないのかなぁと、半ば諦めもした。
 だって、なんだかややこしそうなことに自ら首を突っ込んで、悪目立ちはしたくない。だったら穏便に、何事もなかったように過ごして終わらせてしまいたい。
 そのほうが私にはいい。きっと。私が我慢すれば済むならば。

 ところがそうはいかなかった。人生は甘くないとか、悪いことは連鎖するとか言うけれど、まさかそうなるとは。

 月曜日。昨夜遅くに帰ってきた伊堂寺さんと共に朝食を食べ、時間をずらして出勤する。二日間ほぼ顔をあわせなかったけれど、だからといって何もない朝、午前中。
 出勤してからも仕事上、不便はなかった。仮にも上司だけど、私の仕事への指示は基本的に水原さんからやってくる。

 午前中、鈍い下腹部痛に襲われお手洗いへと向かう。大体把握はしてたから予想通り、生理がきた。
 薬も飲んでおくか、と個室に入ったまますこしの間項垂れる。毎度重たい生理痛に悩まされるわけじゃないけれど、初日にこの感覚はちょっと厳しい日が続きそうな予感がした。
 それに一ヶ月という期間から覚悟していたものの、伊堂寺さんのマンションで、ゴミもこっそり処分しなければならない。憂鬱といえばそれも憂鬱。

 そこに入ってきた足音ふたつ。
「そういえばさ、聞いた? 野崎さん」
 入ってくるときも続いていた他愛のないお喋りは、唐突に話題を変えた。
 自分の名が呼ばれて、固まってしまう。完全に出ていくタイミングを失った。
「なんの話?」
「いや、なんかさ、伊堂寺さんから婚約破棄されたらしいよ」
 そこまで聞いて、自分の話ではないことを知った。野崎すみれさんのほうだ。
 
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