きみは金色
おだやかな陽だまりの中にあるその光景は、自分以外の全てが、スウッと消えてしまったあとみたいだった。
おれ以外の、全部。
…おれと、市ノ瀬、以外の。
筋肉の力を抜いて、だらりとイスにもたれかかったときだった。
スウ、と。息を吸い込む音が、聞こえたんだ。
おれから、じゃない。市ノ瀬がいるところから。
軽く目を見開く。
気持ちを入れ替えるかのように、市ノ瀬が、背筋を伸ばす様子が映りこむ。
ふわりと、細い肩が浮く。
黒い長髪が揺れる。
そして最後に。
ピアノに触れた指が、中断していた演奏を再開した。
「―――――」
思わず、息をのんだ。
宙に舞う羽のような、とてもやわらかいタッチだった。
やわらかかった。音も。
沈んでは浮き上がる鍵盤。
ヒュッ、と。自分の息が何度も、のどの奥に引っ込む。