ライギョ

戸惑い

BAR「リラ」はそれほど広くなく、カウンターに6席、そして壁際に小さなテーブル席が2つあるだけで満席でも10人が入れるほどだろうか。


店内はBARにしてはさほど薄暗くもなく、間接照明の柔らかい明るさが千晶さんのその美しさを尚更、引き立てていた。


俺は壁際にあるテーブル席に座り、普段カウンター席に座っているとあまり見ることのない店内の様子をじっくりと観察した。


控えめながらもセンスよく飾られた店内をまじまじと見ると、千晶さんがいかに洗練された大人の女性であるかがよくわかる。


「傘を………」


「えっ?」


なるべく向いに座る人物に目を合わせることなく店内を見ていた俺もその声を無視する訳にはいかない。


何故なら俺がその人物につい、声を掛けてしまったのだからーーーー山中と。


「いや、傘を…折り畳みの傘をこの店に忘れたんちゃうかなって。CLOSEって表に掛かってたんやけど明かりがついてて中に人がいるのが分かったから。まさか名前を呼ばれるとは思わんかったけど……。」


じっとテーブルの上に組まれた手を見ながら話す山中は俺が知っている頃の山中とは随分と印象が変わっていた。


と言っても10年ぶりの再会であるにも関わらず、一目見て山中だと分かったのだから、見た目的にはほぼ変わっていない。


ただ、少し自信無さげに話す目の前の人物にあの頃の山中はいなかった。






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