ライギョ
「ふうん。お手の物ね。」


ノートパソコンの画面を覗きながら千晶さんが言う。


俺は千晶さんの肩が触れるか触れないかのその距離感が気になって仕方ない。


その思いを振り切るかのように、作業に集中する。


「………っと、取り敢えずこれで大丈夫かと思いますが、確認して貰えますか?」


ノートを開いたまま千晶さんの方へと向ける。


「うん。大丈夫みたい。ほんと、助かった。私、昔から苦手なのよね。疲れたんじゃない?ごめんね、折角のお休みに。」


「別にこれといって予定も無かったし、それに俺、結構、こういうの得意なんで気にしないで。むしろ、また言って貰ったらやりますよ。」


「本当に?じゃあ、遠慮なく頼もうかな。」


千晶さんがカウンターの上を片付けだしたのを見て、そろそろ俺も店を出ようと財布を出した。


さっき飲んだジンバックの代金を払うためだ。


「やだ、やめてよ。お金なんて要らないわよ。最初から貰うつもり無かったし。それに手伝って貰ったんだもん、尚更よ。早く財布をしまって。」


「えっ…でも……。」


「ほんと、要らないわよ。」


千晶さんが一度言い出したことはほぼ、その通りにすることになるので、遠慮なく財布をしまうことにした。


「いつも、すいません…。」


「こちらこそ、ありがとう。」


名残惜しさ大有りながらも、千晶さんの笑顔も見れた事だしそろそろ店を出て帰ろうとした時、ドアベルがカランカランと音を立てた。


「ごめんなさい。今日はお休みーーー」

















俺は昨夜、しわくちゃに丸めた同窓会の案内をちゃんとゴミ箱にナイスインしていれば思い出すことも無かっただろう、その名前を呼んだ。


「や、山中…なのか?」






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