ライギョ
「ねぇ…もしかして出身って関西方面?」


それは他の客が帰って店内に俺一人になった時、千晶さんが突然聞いてきた。


「えっ、ああまぁ……どうして?」


「だってお友達の彼の言葉を聞くとそうなのかなって。今日は暇だしもう閉めちゃって私も飲もうかな。」


「えっ………」


予想外の展開に心臓が超高速ビートを始めてしまった俺を他所に千晶さんは表にCLOSEの看板を出しに行った。










「今日もお疲れ様。」


「あっ、お疲れ様……です。」


俺の隣に座りグラスに入ったビールに口をつける千晶さんに思わず見とれてしまう。


俺の視線に気付いたのか


「たまには、息抜きもしなくちゃね。」


と笑顔の千晶さんが言う。


こんな夢見心地な展開になるなら毎日でも息抜いてくださいと言いたい所をなんとか堪える。


「私ね、実は昔、少しの間だけど大阪に住んでいた事があるんだ。」


「本当に?」


「うん……まぁ、2年くらいかな。普通にOLしてた。」


千晶さんからそんな話を聞くのは初めてだ。


「俺の出身、大阪ですよ。」


「そうなの?全然気付かなかった。言葉だって……違うじゃない?」


「中学の時、こっちに引っ越して来たんです。言葉をからかわれるのが嫌で……まぁ、思春期だったし。」


「そっか……そうなんだ……。」


そこで会話が途切れた事で急にこの空間に俺と千晶さんしか居ないという事実を改めて知る。







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