ライギョ
「大阪にまた行きたいなぁ。随分と行ってないし変わっちゃっただろうな。」


そう言いながら懐かしそうに細める目は一体、何を見つめているんだろうか。


「夏休みは取れそうなの?」


「なんとか、取るつもりです。」


「ふうん、じゃあ、帰るの?」


そう言って不意に目線を送るってくる千晶さんに俺は


「えっ、ああ、まぁ……」


と曖昧な返事を返す。















「じゃあ、一緒に行ってもいい?」


「えっ、ええっ!」


思わずカウンターのスツールからずりおちそうになった。


「うん、ちょうどね。そのOL時代に唯一、仲の良かった子がいてね。春に結婚式に招待されたんだけど行けなかったから。」


「そ、そうなんですか……。」


俺は自分で言うのも何だけど割りといつだって冷静な方だ。


しかしこの状況で冷静にいることの出来る男が果たしてどれくらいいるのだろうか?


俺はもちろん、今、とても動揺している。


「もう、随分と行ってないし電車とか分かんなくて……一緒に行ってもらえると心強いんだけどなぁ。」


これは俺を誘ってると受け取っていいのか?


どっちなんだ?


この場合の選択、どっちが正解なんだ?


「ねぇ、やっぱり迷惑よね?」
















そんな事あるわけないですよ………


って言おうとしたら


「まっ、お店閉めて行くなんて初めから無理な話なんだけどね。」


「えっ、ああ……ですよね。」


なんだ………本気じゃなかったのか。


だけど、正直ちょっとだけホッとした俺のハートは未だ中二の頃と変わらないのかもしれない。


















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