ライギョ
その夜の山中はこの前、リラで偶然に会った時より饒舌だった。


それは出張先というアウェイではなく、生まれ育ったホームだからなのか……


それとも小夜子の存在のせいなのか……


その後は当たり障りない話をして、その日はお開きとなった。


山中が奢るというので素直に御馳走になり二人と別れた俺は漸く実家へと向かうことにした。


実家に向かうという事はあの日、俺が大阪を去って以来、見る事のなかった大阪城が嫌でも目に入るわけで……


乗り換えた電車の窓から見えるそれは、変わらずそこにあった。


別になんて事ない。


そうだ。


何も変わってないんだ、あの日から…


変わったのはあの時…あの場所にいた俺達であって、ここは何も変わらない。


最寄り駅の改札を抜けると、電車内から見たよりも更にその姿はハッキリとする。


夜だというのにこの街も相変わらず明るくて、城も見事にライトアップされていた。


ふと、腕に目をやる。


祖父母が入社祝いにくれたその高価な腕時計は新入社員の頃、ただただ居心地悪げに俺の手首に収まっていた。


今では後輩も付き、少しは責任ある仕事も任されるようになってはきたけれど、相変わらず俺の貧弱な手首には不釣り合いに思えた。


時刻は間もなく午後11時。


不意に千晶さんの声が無性に聞きたくなった。


平日のこの時間ならリラはまだ開いているだろう。


それともそろそろ看板を下げる頃だろうか?


どちらにしてもリラに千晶さんがいるのは間違いない。


ただ、電話する理由が俺には見つからない。





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