ライギョ
千晶さんと連絡先の交換をしたのは前に千晶さんの仕事を手伝ってあげた時だ。


特に何の意味も無く深くも考えずに「分からない事があればいつでも聞いてください。」って自分のナンバーをメモに記入して渡したのだった。


渡してしまってから、何か下心ありみたいでちょっと不味かったかなって俺が複雑な顔をすると


千晶さんが自分のスマホを使い早速、俺の番号へーーー


「それ、私の番号ね。アドレスもーーーLINEの方がいいかしら?」


目の前で俺のスマホを取り上げ、ふるふるしている千晶さんを俺は何だか夢見心地で見つめていた。


つい、あらぬ妄想に走りそうなのを千晶さんの言葉で我に返る。


ーーーまぁ、多分、掛けることは無いわよね。お店に毎日のように来てくれるんだもんね。その時に分からない事はまとめて聞くわ。


掛けることは無い……


それ以外で連絡する事は無いって事か………


妙に落ち込んだのはつい、最近の事。


が、しかし


今、俺は間違いなく千晶さんと通話している。


「えっと……何かパソコンのデータの事とか?不具合でもありましたか?」


何とか平静を保ちながら言葉を吐く。


それ以外に俺のスマホに掛けてくる理由が見つからない。


なのに返ってきた答えはーーー


「うん、そうじゃなくて……」


「そうじゃなくて?」


「今ね、私、新大阪にいるんだ。」


「えっ………」


どうやら俺が実家に向かうのはまだ後になりそうだ。











< 58 / 110 >

この作品をシェア

pagetop