ライギョ
「服装も何もかも全て男物ばかりやったし、習い事も空手とか剣道とか武道ばかりで。それでも僕はなんの疑問も持たずに過ごしてきたんです。それがーーー」


そこまで言うと原 妃咲の言葉は完全にストップしてしまった。


「それが?」


俺が何も考えず聞き返すと


「それがーーー」


急に言葉を探すように言い淀む。


けれど何かを決心したかのように一つ頷くと、


「僕、中学に入って漸く印が来たんです。」


「印?なんの?」


「いや、だから…」


それまでとは違い口籠る原 妃咲に代わり、何かを察したげな小夜子が声を出した。


「あなたの体が女の子として機能し始めた…って事よね?」


原 妃咲は黙ったまま一つ頷いた。


そういうことか…。


そこまで聞いてハッとする。


「えっ、まさかそれで捨てられた?」


いくらなんでもそんな事、ある訳ないだろと言う俺の考えは呆気なく崩された。


「うちの家に女の子なんかいてない。お母さんが僕に言った言葉です。」


「冗談だろ?そんな酷い話し…」


ある訳ないだろと最後まで言えなかったのは原 妃咲の目から涙がこぼれ落ちているのを見てしまったから。


「僕は僕の存在を消されたんです。実の母親に。」


静かに涙を零す原 妃咲を見ていると漸く、彼女が女の子なんだという事を実感した。









< 89 / 110 >

この作品をシェア

pagetop