桃の花を溺れるほどに愛してる
 私のために勝手に死に急いだというのなら、さらに大バカよ。私が春人の死を望むわけがないじゃない。

 だいたい、私がそう望んでいるのだとしたら、とっくの最初に「別れて」って言って春人に見向きもしないわよ。

 アンタが私に告白してきたあの日、私はアンタを引き止めずに遠ざかる背中を見送っていたわよ……!

 引き止めたのも付き合ってあげたのも仕方なくだけれど、アンタに死んでほしくなんかなかったからに決まっているじゃないっ!

 ねぇ?春人……。

 お願いだから、目覚めてよ。

 鼻の奥がつーんっと痛んで、目頭に涙がたまっていく。

 私は。私は……。


「アンタのことが好きなの!」


 その言葉を発するのと同時に、目から涙が零れ落ちていく。


「責任とりなさいよ、ばかぁ……っ!」


 勝手に私の目の前に現れて、勝手に死んでいくなんて、そんなの……許さないんだからっ!!!


「春人……!」

「……とうか、さん?」


 ――えっ?


 掠れているけれど聞き慣れた声が聴こえて、私は思わず春人の顔を見る。

 春人は、うっすらと両目を開けて、どこか宙を見ていた。私は反射的に春人の手をとり、声をかける。
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