桃の花を溺れるほどに愛してる
「まっ、あんたらがどうなろうが、俺には関係ないことだけどね」


 私に背中を向けて校内に入っていく見知らぬ彼を、私は慌てて引き止めた。


「あのっ……!あっ、ありがとうございま、す……?」

「ぶっは!」


 一応、忠告してくれた……みたいだし、お礼の言葉を口にしたんだけど、何故だか彼には笑われてしまった。


「礼を言うなんて、ヘンなヤツだな、あんた。しかも疑問形かよ……くくっ」

「えっ?」

「いや、気にすんな。俺は聖。龍宮司 聖(りゅうぐうじ ひじり)。よろしく」


 なんだか、また、からかわれているような気がするけれど……。


「そうなんですか。私の名前は――」

「――神代桃花、だろ?知ってる」


 またしても私の名前を知る人物に、遭遇っ!!!

 春人といい榊先輩といい、どうしてみんな、私のことを知っているんだろう?


「名札」

「……はい?」

「名札を見れば分かるだろ?」

「……あっ」


 そっか。それは……確かに。名札を見ればすぐに名前なんて分かるのか。変に考え込むところだったわ。


「……まぁ、あんたの場合、カワイイってちょっとした有名だし」

「え?」

「なんでもない。とにかく、榊センパイには気をつけるように。じゃっ!またね?“神代センパイ”♪」

「はい。また……」


 ――って、“神代センパイ”?!今のっ、1つ年下の私の後輩?!高校1年生だったのっ?!

 確認する間もなく、聖くんは自分の教室へと向かって行ってしまった。
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