桃の花を溺れるほどに愛してる
 視界がぼんやりと霞む中でも、男が僕に近付いてきているのが見えた。

 意識が朦朧として、呼吸をするのがやっとの状況……。

 このままだと、僕は……やられる?以前のように、やられっぱなしになる?僕は、僕は……桃花さんを助けに来たのに……こんなんじゃ……本当、情けない……。

 悔しさで唇を噛み締めると、頭上から男の笑い声が聴こえた。


「弱いなぁ?お前。こんなんでようあの女を守ろうとしたなぁ?」

「……っ」

「その勇気は認めたるけど、力のない男なんてあっという間に愛想を尽かされて――“終わり”やで」


 ――終わ、り?

 弱い僕は、桃花さんに愛想を尽かされて、嫌われて、終わり……?


「まぁ、運がなかったっていうことで……苦しみながら死ん、――うぉあっ?!」

「?!」


 僕の前に立っていた男は、一瞬のうちに、横へと吹っ飛んでいった。

 横から誰かが飛び膝蹴りを食らわしたんだろうけど、この建物の中にいるうちの1人って、もしかして……!


「あ~あ。ケンカで負けたことないけどさ、ケンカ自体はあまり好きじゃないんっすよね、俺」

「聖くん……!」


 しれっとした様子で立っている聖くんが、そこにいた。
< 298 / 347 >

この作品をシェア

pagetop