桃の花を溺れるほどに愛してる
「はぁ~……」

「……」

「……はあぁぁぁ……」

「……あのう、桃花サン?」


 休み時間、親友である京子に名前を呼ばれた私は、そっとそちらに視線を向ける。


「どっ、どうしたの?」

「何が?」

「さっきから、ずっと、重い溜め息ばかりついているけど」

「はぁ?!そんなの、ついているワケが……はぁあああ~……」


 あっ、ホントだ。私……溜め息、ついている。無意識だったのかな?京子に指摘されるまで、全然気が付かなかった。


「なに、なに?例のイケメン彼氏さんとケンカでもしたの?」


 “興味津々”と“本気で心配”を混ぜたような声音で尋ねてくる京子に、私はまた溜め息を吐いた。

 でも、そうだよね。ひとりで悩むよりかは、誰かに相談した方がいいよね。よし、京子に相談しよう。


「あのね……」


 私は、実は春人のことをどうとも思っておらず、春人にフラれて別れたいがために、ここ1ヶ月の間たくさんの嫌われる女を演じてみたけど、まったく効果がないことを明かした。

 もともと向いていない演技……しかも“嫌われる女”という演じたくもない演技をしてきたため、肉体的にも精神的にも疲れてしまって……どうしたらいいのか分からないと、京子に告げた。

 どんな答えが返ってくるのかと待ってはみたものの、京子からの返事は一向にこない。

 不思議に思った私は、閉じていたまぶたを開いて再び京子に目をやった。
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