笑わぬ黒猫と笑うおやじ
連れてこられたのは従業員が休憩をするであろう部屋だった。
シックな店内とは違い、休憩室は赤、ピンク、白、緑、黄色、と色とりどりカラフルな家具が置かれている。
ピンクの机に白い椅子、赤い時計に、緑色のゴミ箱、従業員が読むであろう本や雑誌が、黄色い本棚に雑に並べられている。
「(な、なんか……凄いな)」
私にはない、センスだと思った。
目がチカチカするけど、何故だか居心地は悪くなかった。
私は辺りをキョロキョロと見渡していると、不意にポン、と頭を叩かれた。
驚いて顔を上げると、塩谷さんが私の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら相変わらずの笑みをこぼしている。
……なんなんだ、と訳が分からず黙っていると、ちぃーす、というやる気のない声が聞こえてきた。
反射的にそちらを見ると、入り口付近に立っていた私と塩谷さんが邪魔なのか、目付きの悪い目を更に悪くしながら睨んできた。
「(こ、怖い……!)」
思わず塩谷さんの服の袖を、きゅっと握り締めると、
「大丈夫大丈夫、烏丸は顔面凶悪だけどいい奴だからさ~」
「マスター、一発殴らせて下さい」
「え、ソフトにね?」
「………気持ちわりぃ」
烏丸(からすま)さんと呼ばれた顔つきが少し怖い男の人は、塩谷さんの飄々とした態度に毒気を抜かれたのか、頭をかきながら部屋の奥にある簡易更衣室へと入っていった。
………見た目の言動も怖いんですが、烏丸さん…。
そんな事を思っていたら、
「いやっだーー!!遅刻よ遅刻ーー!!あたしったらお馬鹿さんっ!!」
と言う言葉を、低い声を無理矢理高くした声で言いながら誰かが休憩室へと入ってきた。