カリス姫の夏
岩の上で力強く足を踏ん張る将司が、私にこの先の生き方を教えてくれる。たくましくなりなさいと、励ましてくれる。


「自分の下に何があっても関係ない。
自分の上にどの亀が乗っても気にならない。
そんな風に思えるようになるのかな」


華子さんは私の方に顔を向け、不敵な笑みを浮かべた。


「なれる。
なれるわよ、いつか。
もしさ、あんたがそうなったら、その時は子リス。
あんたのこと、ちゃんと名前で呼んであげるよ」


「約束ですよ」

と、私は念を押した。


何か重い荷物が降ろせたような気がする。いや、全て降ろしたとは言い難いが、半分……三分の一位にはなったのではないか……
いやいや、おにぎり一個分、カバンから出しただけかもしれない。


それだけでも、もうすぐ始まる新学期を乗り越えて行けるような、そんな気分になれた。


「まっ、いつになるかは分かんないけどねー」

と言うと、帰り支度をしようと華子さんは立ちあがった。お尻をパッパッと手ではらうと、枯れた芝がパラパラと舞い落ちた。


置いてけぼりにされてはたまらないと、私も急いで立ち上がった。しかし、無数の視線を感じる。視線の主を見た私に、純粋な疑問が浮かび上がった。


「華子さん、ひとつ訊いてもいいですか?」


「んっ?」


立ち去ろうと池に背を向けた華子さんが、振り返った。


「なんでこの亀が将司だって、華子さん、分かるんですか?」


華子さんは、私を小馬鹿にするように笑った。


「あったりまえでしょ。
あたしと将司はね、長い付き合いなんだよ。
あたしが呼んで大好物のキャベツねだるのは、将司だけなのさ。

あたしだって将司の顔、忘れやしないよ。
一目で将司だって、分かるさ」


「でも……」


ミドリ亀が十数匹、池のふちに集まり、ひょっこりと顔を出していた。みな将司とほぼ同じ大きさで、将司と見分けられないほどそっくりな顔をしている。そして一様に、キャベツをねだっているように見える。


その亀達を指差し、華子さんに視線を送った。


「わたしには、どれも将司に見えるんですけど」
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