カリス姫の夏
高校生のこんなたわごとなんて、虫唾(むしず)が走るのだろう。華子さんは首筋をぽりぽりとかきながら、言い捨てた。
「ふっ、ばかばかしい」
「そりゃあ、華子さんには分かんないですよね。
わたしの気持ちなんて。
独りで焼き肉やさん入れる人に、女子高生の複雑な人間関係なんて……」
「ああ、わかんないね」
と、華子さんはにべもない。それでも何か伝えようと、言葉を続けた。
「でもさ、子リス。
見てみなよ、将司を。
あの子、今、幸せだと思う?
総一郎のマンションで、プラスチックの衣装ケースの中で飼われてた時より幸せだと思うかい?」
将司の本心を探ろうと、私は気持ち良さそうに日向ぼっこする将司を観察した。
するとどこからか、将司よりひとまわり小さなミドリ亀が泳いで来た。子亀は将司に近づくと、その短い手足をフルに使い、将司のいる岩によじ登り、更に将司の上に乗った。
子亀が将司の上で日向ぼっこを始めると、さながら、親子亀の完成だ。
一方将司は、自分の上に無許可で登った無礼な仲間など意にも介せず、日向ぼっこを続けている。それどころか、上に乗られてる位の方が塩梅(あんばい)いいとでも言いたげに、目を閉じている。
「うーん。
やっばり、今の方が幸せなんじゃないですか?
自由だし、仲間もたくさんいるし……」
華子さんは、この回答を待っていましたと言わんばかりに私をこき下ろした。
「ばかだね。
だから、考えが浅いのよ。
将司にとっちゃ、どっちでもいいのさ。
適度のエサがあって、好きな時に日向ぼっこできれば将司はどこにいても幸せ。
仲間がたくさんいたら楽しそうだなんていうのは、人間の思い込み。
自分と重ね合わせてるだけなのよ」
「そうなのかなー」
「将司はね、どこで日向ぼっこしてても関係ないの。
岩の上でも、衣装ケースの浮島の上でも、他の亀の上でもね」