カリス姫の夏

学生達はそれぞれのスタイルを保ちながらも、学校からできるだけ早く離れようと足を速めている。


だるそうに夏期講習の日程を愚痴る男子学生のグループ。

猛暑も感じず仲良く手をつなぎ、身体を密着される男女のカップル。

イヤホンを耳に刺し、大音量の音楽で自分の世界に浸る女子高生。


誰一人、私の存在すら気にもとめていない。



……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……



普段はギュっと押しこめている感情が、私の胸をしめつけた。その痛さに耐えきれなくなると、自然に呼吸が速くなった。半開きの口からは熱い息が細かく何度も出入りする。猛暑に耐える犬のように、全身で呼吸した。


呼吸ってどうやってするんだっけって幼児でもしないような疑問を自分自身に投げかけていたら、空気を吸っても吸っても、全身に酸素が行き渡らない不思議な感覚に襲われた。焦って呼吸をすればするほど、どんどん苦しくなる。


ふらふらと歩く私に気づかない女子高生との距離は、どんどん離れていく。少しずつ小さくなるクラスメイトに、声をかけることすらできない。



…くっ……苦しい……



お願い。
この際、他人でもいいから今だけ私の存在に気づいて。

明日からの夏休みは大人しく家で一人で過ごすから。
友人ヅラしてメールしたり、ラインから外されてるなんて文句言ったりしないから。


なんでだろう。
手も痺れてきた。目の前に白くもやがかかる。


もう………
立っているのも、

………つらい………

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