Doll‥ ~愛を知るとき


ふと、海が見たくなった。

国道へと視線を遣って、樹の言い付けを思い出す。


─ ドアも絶対に開けるなよ ─


商店はアパートから徒歩でも二分と掛からない。

普段、足りないものを買いに出ることを樹は何も言わない。

だけど、洗剤を買いに来ただけでも今日は叱られるかもしれない。


─ 早く帰らなきゃ‥


足を踏み出した時、国道から信号の無い道路を渡って、人が歩いて来たのが見えた。

背広姿の男の人。

観光地でもなんでもないこの田舎町で、背広を着ている人なんて珍しい。

都会的な雰囲気のその男性は、こちらに向かってどんどん近付いて来た。


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