触れる体温
図書室が、職員室では出せない、ため息つける場所、ということに、意味を見出だしてもいいのか迷っている。

「こんなこと、聞きたくないよな…ごめんな、谷川先生。」
「いえ、作業しながらで、すみません。」

2週間前、文化祭の振休の日に来た金沢先生は、やたらと落ち込んでいた。誰とは言わなかったが、生徒に告白されたそうだ。

「聞くぐらいしかできないし、気のきいたことも、アドバイスも言えませんけど……ただ、いいなって思いますよ。」
「え?」
「それだけ、先生が魅力的で、彼女の青春の一ページに刻まれて……そういうの、教員として憧れです。」

その言葉で、心がゆるんだそうだ。今まで、家に帰るまで心がゆるむことがなかったけど、ここ最近はここに来ると、ため息つける、安心する。

金沢先生の言葉は、今までただただがむしゃらに仕事をしてきた私にとって、本当に嬉しい言葉だった。

「ありがとうございます。生徒にとっても、先生にとっても、そういう場所にできたらなって、思ってたんで、すごく嬉しいです。」

素直に嬉しい気持ちを伝えたのだけれど、何かが違ったようだ。
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