触れる体温
翌日以降は、いつもの金沢先生だったけど、2週間たった今でも、寂しそうな瞳の色が、頭の隅から離れない。

なんか、悪いこと言っちゃったかな。
よく分からないけど、地雷踏んだのかな。

カウンターに座って、十進をぼんやり眺めていたら、からからと引き戸をあける音がした。

「お疲れ様です。金曜日なのに、まだまだ仕事ですか?」

キュッキュッという足音と、ニマッとした笑顔が、そこにあった。

「いえ、やっと終わったのでボチボチ帰ろうかと思ってて。」
「そうですか。ギリギリセーフ?」
「何が?」
「ちょっとだけ、英英辞典、見てもいい?」
「あ、大丈夫ですよ。」

いつものように、レファレンスブックの書架に向かった。キュッキュッという足音と一緒に。

800番台の書架で、いつも通り立ち止まった。
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