年下彼氏はライバル会社の副社長!(原題 来ない夜明けを待ちわびて)
 夕飯の支度をする。何故別れたいって言うのか、理由が分からない。厳格な父親に反対されたんだろうか、平凡な小娘なぞいらん、とか。社にとって有益な取引になる娘がいい、とか。


「私じゃ副社長夫人に足りないってことか~、うんうん」


 極々平凡な家庭に育って極々平凡に生きてきた。そりゃそれなりに辛いこともあったし、楽しいこともあった。平々凡々なりに苦楽を乗り越えてきた。乗り越え方も平々凡々かもしれないけど。


「はい、冷やしトマト上がりっ」


 ワンルームの真ん中にあるローテーブルにお揃いの箸と共に由也くんに差し出した。理由はなんであれ、これが最後の晩餐になるかもしれない。


「腕によりをかけたからねっ、食べて」
「はい」


 切っただけのトマト、由也くんは突っ込みを入れなかった。箸で一枚トマトを取り、一口に食べる。


「……美味しいです」


 由也くんは再びトマトを口に入れた。固くはないトマトを味わうようにゆっくりと噛み締めている。


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