年下彼氏はライバル会社の副社長!(原題 来ない夜明けを待ちわびて)


 その翌日だった。兄は置き手紙を残して家を出て行った。父親は落胆した。手塩にかけて育てた長男があっさりと自分の元を去ってしまったのだから。それから数年、父親は兄の帰りを待っていた。絵で食っていけるほど世の中は甘くない。そのうち音を上げて帰ってくるだろうと待っていた。ところが待てど暮らせど兄は帰ってくる気配が無い。毎日父親はため息をついていた。あの気丈な父親の背中が小さく見えた。父親は兄を殴って勘当だと怒鳴って追い出した癖に、兄が出た後はずっとしょぼくれていた。


「そんな父を見ていたら……」
「僕が後を継ぐ、って言っちゃうよね、由也くんの性格なら」



『由也、どうだ? うちの会社は』
『……はい。僕でいいんでしょうか?』
『由也こそ、いいのか?』


 父親はすごく喜んだ。その夜の食卓にはご馳走が並んだ。ずっと沈んでいた家の中の空気が明るくなった。そうして由也くんは大学を卒業し、スマイル乳業に入社した。しかし。
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