それでも僕は君を離さない
奈々の真向かいだ

他の2人がしゃべり出した。

「笹尾さん、ラボはお忙しいでしょ?」

「いや、皆で協力し合っているし、まだ研修中だしね。」

「今度このメンバーで飲みに行きませんか?」

「ごめんなさい。私は飲めないので遠慮します。」

「樋口さん、飲めないの?」

「すみません。」奈々は平然と言った。

「じゃ、笹尾さんは私たちがお相手しますわ。」

「オーケー。」俺は2人に承諾した。

奈々はウソをついた。

本当は飲める。

俺が酔わせて独り占めにしたんだ。

彼女の寝顔を飽きるまで見つめていたんだ。

今はもう一度この腕に抱ける日を待つのみだ。

「ごちそうさま。今日はお誘いをありがとうございました。お先に失礼します。」

「ええ、またね。」

奈々はトレイを持って席を立った。

一瞬だが俺を見た。

目が合った。

だが何も読み取れなかった。

彼女の心が複雑すぎて俺には何もつかめなかった。

同じ社内にいる俺の存在と

坂下の強引な仕打ちのどちらが彼女を苦しめているのだろう?

たぶん99%の確率で俺の方だ。

俺はそれを何としてでもいい方向へ持っていきたいと思った。

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