それでも僕は君を離さない
「無理に言葉にしなくてもいい。」

俺は静かに言った。

すると突然奈々の目から大粒の涙がこぼれ出した。

それは頬の上を滝のように流れた。

「なぜ泣く?」

俺がそう言った途端まばたきをした彼女の目から滝が大きく波打った。

「どうした?」

「急ぎなら早く戻らないとダメです。」

奈々の涙声を初めて聞いた。

「大丈夫だ。」

「いいえ。早くラボに戻ってください。」

「泣いた理由を知りたい。」

「あとでメールします。」

「メールはダメだ。今日終わったら家に寄るからちゃんと話せよ。いいな。」

「わかりました。」

「ほら、しっかりしろ。」

俺はかすかに聞こえるように言って

彼女の頬を軽くぬぐってやった。

「はい。」

彼女は涙を流しながら笑顔で答えた。

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