Secret Rose
絵里奈はご飯を食べてしばらくすると、「せっかくの家族水入らずなのに」と、気を遣って帰ってしまった。

晩御飯は、毎年母と行っていた料亭に、父も含め3人で行くことになった。
父と母は、私が生まれる前から、給料日の日には、よく食べに来ていたそうだ。

「まだもみじ散ってないねぇ」

母は嬉しそうにそういう。

「茜も赤ちゃんのときは、もみじみたいな可愛いお手手しててんで」

父はそういうと、私の手を取り、自分の手に重ねてみせた。

「まだ小さいなぁ、そんなんでは俺みたいなギタリストにはなられへんな!はははっ」

「ギターなんか弾かんわ!」

「ほな、ピアノか?ピアノにもこの手ではあかんけどなぁ」

父はニコニコと話しを続ける。

「ピアノも弾かれへん!」

「ほな、将来どないすんねん。あ!もしかして、ヴォーカル狙ってんちゃうやろな!」

「歌もうたえへん!」

「そういえば、茜は将来何になりたいん?」

母も話しに加わる。

「えー、別に考えてへん。」

「なんかあるやろ」

父が答えを急かす。

「えー、ほんなら・・・外国行きたい」

「なんで?」

「せやから考えてへんって」

「漠然と外国行きたいゆうたって。どこの国がええん?」

「えー・・・イギリスとか?」

「イギリス行って何すんねん」

「もうわからへんわ!まだ考えてないねん!」

「まぁ、イギリスなら俺も賛成やわ」

母が不思議そうに父に問う。

「え?何で?」

父が胸を張って答えてみせる。

「イギリスはロックの本場やろ!!」

「音楽の道には進まん!万が一、万が一やで?進んだとしても、父さんの娘やからって、親の七光りにはあやかりたくないし」

「黙っときゃいいやんか、俺の子供や、ってこと」

「とにかく、音楽は興味ない」

「部屋にいっぱい、GJのCDあるくせにー?」

「ちょっと母さん!黙れっ!」

母さんに暴露され、父にからかわれそうなところに、料理が運ばれてきて難をしのいだ。
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