リップフレーバー
そんなことをボンヤリ考えていると、陽希は私の持っていたコーヒーを奪い取り、急にギュッと抱きしめて来た。
「美知佳さん、他の男のこと考えるの禁止ね」
「他の男って。聞いてきたのハルでしょうに」
「うん。でも、何かムカついた。美知佳さんの過去とか、やっぱりあんまり知りたくないや」
綺麗な瞳が切なそうに煙るから、私の中の女の部分が絆される。
外では決して見せることのない、陽希の甘えたがりのところ。
「ハル、可愛い過ぎ」
貴方ほど危なっかしくも生きてこなかったし、私の過去なんて、高校時代と一緒でたいして無いんだけどね。
私は所詮、一つのことにしか集中出来ない女なのだ。
「俺、美知佳さんとするようになってから、好きになったんだよ。キス」
……私も好き。
癒すようなキスも、誘うようなキスも。
「じゃ、して?」
珍しく私が素直になったものだから、陽希はクリっとした目を見開く。
キャラじゃないことは分っているけど、その唇が欲しいから私は囁く。
「私も、ハルとのキスが一番好き」
薄明りの中で、重なる影。
今宵も私は、世界で一番甘い時を手に入れる。
――― End ―――

