だから私は雨の日が好き。【花の章】
車を停めて、外の空気を吸うために二人で歩き出す。
春から夏に移り変わる直前の穏やかな日差しが出ており、山の上から街を見下ろせば、そこにはジオラマみたいな綺麗な街並みがあった。
季節ごとに表情を変える此処からの街並みを見つけたのはつい最近で、長く住んでいる割に知らないことが多い街だな、と何故だか嬉しくなったのを覚えている。
隣でリラックスした顔をしている彼女。
自分の妻になり家族になったというのに、未だ『パートナー』と呼ぶに相応しい立ち位置にいる人。
俺達なりのカタチで、これからもこうして肩を並べて一緒にいることが出来るなら。
それ以上のことなど何も望まないだろう、と想った。
「不安か?」
表情に何の曇りもないことが、彼女の強がりであると知っていた。
俺の前でも笑っているということは、いつも笑っていないと不安で笑えなくなるからだ。
俺の言葉に反応して、そっとこちらを向く彼女。
困ったような笑いを浮かべながら、小さく『いいえ』と呟いた。
風に攫われそうな儚げな声ではなく、小さくとも凛とした水鳥の声だった。
「不安ではなく『不満』だわ」
「・・・不満?」
「そう。ずっとカズと一緒に仕事をしていけると想ったのに、あなたってば私を外に放りだすんだもの。不満よ」
そう言って拗ねた顔は仕事を離れた水鳥の顔で、俺も同じように少し困ったような笑いを浮かべた。