だから私は雨の日が好き。【花の章】





二年前。

俺の部長昇格と共に提案した子会社の社長就任への打診に対して、水鳥嬢は簡単に『Yes』とは言わなかった。

今の会社で、俺が育てあげた最初の人材の彼女以外を就任させるつもりは更々無く。

その意向は社長以下取締役も同意見だった。


しかし、水鳥嬢は違った。

この会社からまだ学ぶべきことがあるのを理解しており、自分が今の部署、ひいては会社全体に与えるべき役割をしっかりと理解していた。

それゆえに俺達もその意見を無碍にするわけにはいかず、先方との話し合いの結果、二年という長い歳月をかけて設立までこぎつけたのだ。



彼女は二年の間に会社へと大きな影響を与えた。

役職にこだわりのない彼女は結局最後まで『係長』という職位にいたが、彼女の持っているノウハウは社内研修資料や実際の新人教育へと大きな影響を与えていた。

人事とのやり取りで採用基準の確立をし、採用選考試験の改定まで行った。

社内マニュアルやシステム関係の効率化の必要性を訴え、全社を巻き込んだプロジェクトを発足、リーダーは異例の係長という伝説的存在となった。


幼いころから経営学の知識を学ばざるを得ない環境にいたことが功を奏して、彼女はよい『教育者』となった。

その姿を目の当たりにした役員からは『本当にうちの会社から手放すのか?』という意見が飛び出したほどだ。

しかし、俺の意見は真逆だった。

これだけの手腕を持ちながら、イチ社員で終わらせてたまるか、と。

経営者になるべくして生まれた者は、やはり経営者になってこそ自身を輝かせるのだ、と。

彼女の家の格と育ってきた環境を改めて思い知らされた瞬間だった。




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